にじいろメンタルケア

LGBTQ+当事者が知っておきたい:職場で適切に自己主張するためのアサーション入門

Tags: アサーション, 職場, コミュニケーション, メンタルヘルス, ストレス対策

はじめに:職場の困難と心の疲弊

日々の仕事の中で、自分の意見や感情を適切に表現することに難しさを感じたことはありませんか。特に職場においては、立場や人間関係、あるいは組織文化といった様々な要因が、私たちのコミュニケーションに影響を与えます。

LGBTQ+当事者の方々の中には、職場でのマイクロアグレッションやハラスメント、自身のアイデンティティに関する配慮の不足などにより、心身の疲弊を感じやすい状況にある方もいらっしゃるかもしれません。意見を言うことへのためらいや、自分を抑え込んでしまうことが、さらなるストレスや孤立感に繋がり、メンタルヘルスに影響を及ぼすこともあります。

しかし、相手を尊重しつつ、自分の意見や感情を正直に伝えるコミュニケーションスキルを身につけることは、職場でより健やかに働くために非常に有効です。この記事では、「アサーション」というコミュニケーション手法に焦点を当て、その基本と職場で実践するためのヒントをご紹介します。アサーションを学ぶことで、ご自身の心を守りながら、より建設的な人間関係を築くための一歩を踏み出すことができるでしょう。

アサーションとは何か?攻撃性・非主張性との違い

アサーションとは、相手の人権を尊重しながら、自分の気持ち、意見、要求を正直に、率直に、そして適切に表現する自己表現のスタイルです。これは、自分の権利や主張を一方的に押し通す「攻撃性(アグレッシブ)」とも、自分の気持ちや意見を抑え込んでしまう「非主張性(ノンアサーティブ)」とも異なります。

アサーションは、この非主張性と攻撃性の中間に位置する、健康的で成熟したコミュニケーション手法と言えます。

職場でアサーションが必要な場面

職場では、様々な場面でアサーションのスキルが役立ちます。

これらの場面で適切に自己主張することは、自分自身の心を守り、ストレスを軽減するために重要です。

アサーションの実践方法:具体的なステップと表現

アサーションを実践するための一般的な手法として「DESC法(デスク法)」があります。これは、以下の4つのステップで構成されます。

  1. Describe (描写する): 客観的な事実や状況を具体的に描写します。「あなたが○○と言いました」のように、評価や判断を加えずに起きたことを伝えます。
  2. Express (表現する): その状況について、自分がどのように感じたか、どのような気持ちになったかを表現します。「私は〜と感じました」「私は〜と思います」のように、「私(I)」を主語にした「私メッセージ」を使うことが効果的です。
  3. Specify (具体的に提案する): 相手にどうしてほしいのか、具体的な行動や解決策を提案します。「今後、〜していただけますか」「〜という方法はいかがでしょうか」のように、明確な要求や提案を伝えます。
  4. Choose/Consequence (選択肢/結果): 提案を受け入れてくれた場合(Choose)や、受け入れられなかった場合(Consequence)の結果や代替案を伝えます。「そうしていただけると助かります」「もし難しいようでしたら、〜という方法も考えられます」のように、ポジティブな結果や妥協点を示すことも含みます。

例:会議で自分の意見を聞き入れてもらえなかった場合

このDESC法はあくまで基本的な枠組みであり、状況に応じて柔軟に使うことが大切です。重要なのは、相手を尊重する姿勢を持ちながら、ご自身の正直な気持ちや意見を「私メッセージ」で伝え、具体的な提案を行うことです。

また、言葉遣いだけでなく、声のトーン、表情、姿勢なども、アサーティブなコミュニケーションにおいては重要です。落ち着いたトーンで、相手の目を見て話すことを心がけましょう。

アサーションが難しいと感じるとき、心構え

アサーションは、身につければ強力なスキルとなりますが、特にこれまで自分の意見を抑え込むことが多かった方にとっては、すぐに実践するのが難しいと感じるかもしれません。

アサーションの実践とメンタルヘルス

アサーションを実践できるようになると、以下のようなメンタルヘルスへの良い影響が期待できます。

もし、職場でアサーションを実践しようとしても状況が改善しない場合や、アサーションを試みること自体が強い恐怖や不安を伴う場合は、一人で抱え込まずに外部のサポートを求めることも重要です。職場の産業医やカウンセラー、外部のメンタルヘルス相談窓口などに相談することを検討してみてください。

まとめ:自分を大切にするコミュニケーションへ

この記事では、LGBTQ+当事者が職場で心を守るためのツールとして、アサーションをご紹介しました。アサーションは、相手を尊重しつつ、自分自身の意見や感情を正直に伝えるコミュニケーションスタイルです。これは、非主張性や攻撃性とは異なり、健康的で建設的な人間関係を築く上で非常に有効です。

職場でアサーションを実践することは、ハラスメントへの対応、意見表明、依頼の断り方など、様々な場面で役に立ちます。DESC法や私メッセージといった具体的な手法を参考に、小さなことから練習を始めてみてください。

アサーションを身につける過程は、ご自身の心を大切にする過程でもあります。すべてを完璧にこなす必要はありません。少しずつ、ご自身のペースで、自分を尊重するコミュニケーションを育んでいきましょう。

もし、この記事を読んでも不安が残る場合や、職場の状況が深刻な場合は、メンタルヘルスの専門家や相談機関にアクセスすることをためらわないでください。「にじいろメンタルケア」では、安心して相談できる様々な窓口の情報も提供しています。

自分自身を大切にすることから、より豊かな職場生活、そして心の健康が育まれていくことを願っています。